新たな風
ブルックリンの街は変わらない日常の日々が過ぎ去っている。
レジェンズウォーは回避され文明の破壊が行われることはなかった。
しかし、人々の記憶にはレジェンズウォーの事態は残ってはいなかった。
レジェンズという存在自体が人々の記憶から消え去っていたのだ・・・・・・それは彼らレジェンズと共に過ごしたサーガ達も同じである。
レジェンズウォーが終結した日、世界からレジェンズの姿と共に記憶が消えていったのであった・・・・・・
多少破壊された建物の跡地だけが、彼らの存在を意味していた証のようだった・・・
あの日から季節が丁度一巡りし、五年生だったサーガ達も六年になり卒業を迎えていた。
卒業式を終えた彼らは校庭から校舎をながめながら話し合った。
「今日でこの小学校ともお別れか〜みんなともお別れか〜」
「中学校はみんな同じでしょうが！」
バキッとメグチョップがシュウの顔面にヒットする。
「六年間共に過ごしたこの校舎とお別れはなんだか寂しいんだな」
マックの言葉にシュウとメグも校舎全体を見渡しながら懐かしんでいた。
「色々、あったよな・・・・・・・」
学校生活じゃない何かが・・・・
「・・・・何か、不思議な事がたくさんあった気がするの」
物足りない雰囲気・・・・・
「僕も同じなんだな。・・・・校舎以外にお別れをした気がするんだな」
大切な者があったはず・・・・・・・・・
その頃、ディーノも同じ想いを抱いていた。
「・・・・・僕って変だよね何も話すわけのない薔薇に語りかけるなんて・・・・」
ついつい胸にさしてある薔薇に向かって話しかけてしまうディーノ。
前は会話をしていた・・・・・・・・・・・・
しかしどんなに彼らが思い出そうとしても、ぽっかりと風のように消えてしまった記憶を取り戻すことはなかった・・・・・
それぞれが思い悩んでいても時は自然に過ぎていき、春が訪れ彼らも中学校へと新たな道が始まっていく。
そんな入学式の朝、彼らサーガの家のポストに宛先不明の手紙が一通届いていた。
手紙の内容は一文だけであった・・・・・・・
『午後、秘密基地の屋上で待つ』
入学式の間、手紙のことで頭いっぱいになっており、周りの話とかまったく耳に入っていなかったようであった。
早く式が終わってほしいと・・・・・・ただそれだけを考えていたようだ。
ホームルームも終わり、終業のチャイムが鳴ると同時にシュウ、メグ、マックは大急ぎで教室を飛び出し全速力で走り出した。
「メグやマックもか？」
同じ所に一直線に走って向かっているメグやマックに突拍子で尋ねる。
「内容省略しすぎ！」
走りながらもチョップを華麗にシュウの顔面に食らわすメグ。
「落ち着くんだなメグ。シュウの言いたいことはわかるんだな」
そういってるマック自身も落ち着いてはいなかったのだが。
「いてて・・・・・向かうところは同じかってこと」
「ちゃんと言わなきゃわかんないでしょうが」
「たぶん同じなんだな」
まったく同じ手紙を見せあいながら走り続けていた。
秘密基地の建物が見え始めた時、秘密基地の入り口の前に一人の少年が立っているのを見つけた。
「おっキザオじゃん」
「僕の名前はディーノだ」
何度言ってもシュウはキザオと呼ぶ。
一度もディーノと呼んだ事は結局今でもないようである。
「キザオさんがどうしてここへ？」
「・・・・・この手紙が今朝届いたんだ」
訂正しても無駄と諦めて、話の流れを続けながらディーノも同じ手紙を取り出した。
「ディーノも僕達と同じ手紙なんだな」
「なんで俺達四人だけに届いたんだろうな」
ここに来ていないだけで、他にも届いてるという可能性は最初から感じていなかった。
「普通なら不審な手紙のはずなんだけど・・・・・・」
誰からの手紙かわからないが、なぜだか信用できる。
「何か大切な約束の気がしたんだな」
ずっと無意識で探していたもの・・・それが見つかりそうな気がした。
「僕も同じさ、ここにこないと絶対に後悔をする・・・そう感じたんだ」
一度きりのチャンス・・・・・
そう言いながら彼らが見上げたのは秘密基地の時計台。
彼らは一年間この秘密基地には来ていない。
何度か入り口までは足を運んでいたが、心のどこかで思いとどまっていつも引き返していたのだった。
だが、今回ばかりは彼らは秘密基地のドアに手をかけ・・・・そして中へと入っていく・・・・・・
「うへ〜ほこりっぽい・・・」
一年の間放置されていた部屋の床やテーブルなどには埃が積もっており、少し動くだけで塵が舞っていた。
「ほこりっぽいけど、何も変わってない・・・・・よね」
部屋を見渡していき、宝物を飾ってある棚、電気は通せばまた動くだろう冷蔵庫、彼らの思い出を貼っている写真・・・・・・
「花火大会の時の写真があるんだな。・・・・・この写真どうしてこんなにアングルが遠いのかな？」
いくつかの写真が彼ら中心で撮っているはずなのに遠い位置に写っているのが数枚壁に貼られていた。
まるで、自分達より大きいものを何か撮っていたような空白の空間・・・・・・・
そんな写真の数々、たった一枚だけ変化の起きていなかった写真が残されていた
それにディーノは気づく。
「シュウ、この写真の頭に乗せてる白いネズミは何？」
そこに映し出されていたのは、この秘密基地で記念撮影をした一枚の写真。
シュウの頭の上で笑っている表情をしている白い不思議なネズミの姿があった。
「あっれ〜？何なんだこいつ、まったく覚えが無いぞ・・・・」
写真を凝視して思い出そうとしているシュウであるが、元々そゆのが苦手なのもあるのだが何もそのネズミの事に関して思い出せなかった。
少しだけ胸の奥がチクッとした感じが起きたが気のせいと思っていた。
「っと、それよりグズグズしてないで早く屋上にいこうぜ」
気持ちを振り切るかのように、彼らは屋上へ行くために部屋を後にした・・・・
屋上に着いたが、特に回りに誰かがいる様子はなかった。
「誰もいないんだな」
「来るの早すぎたのかな？」
「急いできてたしね」
それぞれ雑談をしながら彼らは時間がたつのを待っていた。
そんな中、シュウだけは一人屋上に吹いてる風を目を閉じて感じていた。
「ここっていい風が吹いてるよな〜」
シュウが何気なくそう呟いた時・・・・・
ハルカ宅の書庫にある螺旋の書が棚から落ち、最後のページが開かれていた・・
『渦巻く風と吹きぬける風。二つの風がぶつかりしとき、真に一つの風が生まれる。
二つの風が織り成す螺旋は、新たな世界の扉を開く』
最後の一文であり、その後のページは真っ白である。
真っ白だったページに風が吹いてきて、新しい文字が浮かびあがってきた・・・・
『新たな扉を開きしとき、螺旋の鎖は解き放たれ自由な風が生み出されるだろう』
文字が浮かび上がりきると螺旋の書はひとりでに閉じられた・・・・・・
秘密基地の屋上では、突如突風が吹き荒れてきた。
「「「（うわ〜）（きゃぁ〜）」」」
風のように消えていった記憶が、風と共に今戻ってきた・・・・抜けていたパズルのピースが埋まるように記憶が蘇ってきた・・・・
「思い出した・・・・・・・」
メグが静かに呟いた。
「大切な思い出を忘れていたんだな」
空を見上げながらマックは言った。
「でも、どうして突然思い出したんだろう」
ディーノは冷静に状況を把握しようとしていた。
「風が運んでくれたんだよ俺達の思い出を」
突風の後には、先ほどよりも優しく包み込むような暖かい風が吹いているのをシュウは感じ取っていた。
風が運んでくれたのは思い出だけではない・・・・・・・・
「俺らが戻ってきたのもあるしな」
後ろから聞こえてきたのは、聞き覚えのある俺様な態度の声・・・・・・・・
二度と出会えることはないと思っていた、とても大切な存在・・・・・・
シュウ達が驚きの顔を隠せないまま振り返った先に見えたのは、地球に還り姿を消したはずのレジェンズ達だった。
「ズオウ・・・・・ズオウよね？」
涙をためながら、メグは目の前にいるビッグフットのレジェンズに向かって話しかけた。
「メグにまた会えた、ズオウ、うれしい」
足踏みで踊りながら喜びの表現をしている。
「うん・・・うん・・・」
その姿にメグは泣笑いをしながらズオウの手を取りあっていた。
メグのもう一方の手には涙から生み出されたタリスポッドを持っていた・・・・
「お帰り、なんだな」
優しい笑顔を見せながらガリオンに挨拶をする。
「あぁこうしてもう一度マックに会うことができるなど夢にも思わなかった」
もう二度と会えないと思っていた。
あの時、ガリオンも運命に逆らってでもマックと別れをしたくないと願っていた。
「僕もガリオンと会えるなんておもいもしなかったんだな、うれしいんだな」
今こうしている時の幸せを噛み締める。
「これも新たな扉という奇跡なのだろう」
マックの手の元に光の玉が現れ、それを包み込むように両手をかぶせると眩い光を放った。
やがて、光がおさまりゆっくりと手を開いてみると光はタリスポットに変わっていた。
「グリードー・・・・・本当にグリードーなんだね」
何度も思い出そうとしても思い出せなかった、大切な者が今ディーノの目の前にいる。
すがりつくようにグリードーの足を掴みながら静かに泣いている。
「悲しい思いをさせてしまって悪かったディーノ」
ディーノの頭を優しくなでながら謝るグリードー。
「謝らないで、戻ってきてくれただけで十分僕は嬉しいんだ」
傍にいる、それだけで十分だった。
「それに・・・・謝るのなら僕のほうだよ。火を見てもグリードーの事をまったく思い出すことができなかったんだ・・・」
グリードーの別れ際の言葉、火を見たら俺達のことを思い出せ。
そう言ってくれたのに火を見てもなにも感じなかった日々の自分が悔しかった。
「それこそディーノが謝ることじゃない。仕方ないことなんだ、消した記憶を簡単に思い出すことなんてできるわけがなかったんだ」
だから気にするなと、グリードーはディーノに言い聞かせた。
「あの〜坊ちゃん」
二人の空間に申し訳なさそうに言葉を割り込ませるウォルフィ。
「俺達もいるんですけど・・・」
ほっとかれて寂しそうにしているリーオンが呟く。
「あっごめん、ウォルフィとリーオンもお帰りなさい」
そんな様子をくすっと笑いながらディーノは二人のもとにもかけよっていった。
胸に挿していたバラは再びタリスポットの仮の姿の役割を果たしていたようである。
「・・・・・」
目の前の白いドラゴンを見てただ泣いているシュウ。
「相変わらず泣き虫だな風のサーガ」
変わらない俺様口調のシロン。
「・・ウだ・・・・・シュウって呼べよ・・・でかっちょ」
「いつまでも泣いてないで、元気いっぱいの顔を見せろよな・・・・シュウ」
今たしかに名を呼んだ。
シュウは目を見開き、シロンにもう一度頼む。
「呼んで・・・・・もう一度」
聞き間違いではなかったことを確かめるように。
「好きなだけ呼んでやるから、泣き止めシュウ」
シロンの言葉に涙目を腕でゴシゴシと拭い去り、一番言ってやりたい言葉を投げた。
「・・・もう、俺の前からいなくなったりすんなよ！」
ビシッと指を指しながらいつもの元気いっぱいのシュウの姿がそこにあった。
いつもらしさのシュウを見ながら、シロンは一安心しながら返事を返す。
「頼まれたって離れないから安心しろ」
「約束だからなシロン！」
「その約束こいつにもしてやれ」
シロンは背中に乗せていた黒いネズミを掴みとり、シュウの前へと差し出す
「ググ・・・・・」
今からでもその場から立ち去りたい気分の黒いネズミだが、シュウの瞳を見るとそんなわけにはいかなかった。
もし立ち去ろうとすれば、きっとシュウは悲しんでしまうに違いないからだ。
「わるっちょ〜お前も戻ってきたんだな。でもどうしてその姿なんだ？」
みんなレジェンズの姿でいるのに、なぜわるっちょだけがカムバック姿のネズミなのか疑問に思っていた。
「さ〜な、それは本人もよくわかっちゃいないようだぜ。とりあえずリボーンしとけ、シュウ」
ググ語ではシュウと会話すらできないため、リボーンさせるようにせかす。
「俺達のタリスポットはあのとき一緒に消えたんだぞ？」
レジェンズが消えるとともにサーガ達のタリスポットも光となって消えていたのであった。
「お前が望みさえすればタリスポットも出てくるさ」
シュウはゆっくりと両手を空へと掲げた。
すると、手の上で小さな風が舞い風が具現化しタリスポットを形成された。
以前にもっていたのと同じ白いタリスポットを掴み、込み上げる気持ちを高ぶらせながら叫んだ。
「ランシーン、カムバック！リボーン！」
わるっちょは風に包まれ、シュウの持つタリスポットにカチッとはまり大きな風と共に黒い翼のドラゴンの姿が目の前に現れた。
「お帰り、ラン」
満面の笑みで呼びかけるシュウ。
「私は・・戻ってきてよかったのだろうか」
過去の事があるため、どこか後ろめたい暗い表情をしているランシーン。
「何言ってんだよ！お前のサーガだってあの時いったろ？レジェンズはいつもサーガの近くにいないといけないんだぞ〜」
暗い表情のランシーンにシュウなりの活をいれる。
「しかし・・・・・」
それでもランシーンが何かを言おうとしていたので、シロンが静止させた。
「こいつに難しい事言ったって意味ないぜ。一緒にいたいっていう想いだけで、こんなすごいこと起こしてるんだしな」
本来ならこうして再び記憶が戻る事、会える事、話す事はできるはずはないと思っていた。
「それとも、戻りたくなかった？」
嬉しそうではないランシーンに、寂しそうに問いかけるシュウ。
「サーガの元に戻れてうれしくないはずがない」
心から望んでいたシュウの元に今いることができて嬉しいに決まっている。
「ならいいじゃん！固いこといってるとシロンみたいにハゲるぞ！」
「俺はハゲてないっていってるだろが！」
ハゲという言葉に敏感に怒るシロン。
そんなにムキになっていると将来本当にハゲてしまいそうな・・・・
「ハゲたくはないですね・・・・・・」
おもむろにランシーンは翼でシュウを包み込んだ。
「どした・・・ラン・・・・」
突然のことにドキッとしているシュウ。
「貴方から感じる風がとても心地よい・・・・」
シュウ自身から吹いている優しい風に触れて安らかな表情をはじめて見せたランシーン。
「毎日、好きなだけ風を感じさせてやるさ」
思いっきり飛びついてランシーンに抱きつくシュウであった。
「おいっ抜け駆けすんじゃねぇ！」
そんな様子を、見ていられずにシロンが思いっ切り絡みにつっかかっていった・・・・・・
これから毎日のように騒がしく楽しい日々が待っているのだろう。
運命の螺旋の鎖から解き放たれた今、レジェンズ達は共存する道が作られている。
それでも、いつかはレジェンズ達は地球に還る時が来るであろう。
しかし、少なくともサーガ達の時代は共に歩んでいくことができるだろう・・・・・・
新たな風はよい方向へと吹いていた・・・・・・
あとがき
5000HIT突破の記念のフリー小説です♪
風組を中心として、最終回後の物語を書いてみました。
新たな風は共存の世界と信じたいです！
風組ヒイキで他の組の再会が小さめですけど気になさらず(^^;;
配布期間終了しましたｍ(＿ ＿;)ｍ （９／１）
2005/8/10 執筆